カンヌ国際映画祭で注目を浴びる“アジア映画”の珠玉の作品たち
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世界の映画ファンが注目するカンヌ国際映画祭。今年はアレハンドロ・イニャリトゥ監督(『レヴェナント:蘇えりし者』など)を審査委員長に迎えて開催され、最高賞のパルム・ドールを韓国の映画『Parasite』(ポン・ジュノ監督)が受賞。韓国映画がパルム・ドールを受賞したことは初めてで大きな話題になった。昨年は日本の作品『万引き家族』(是枝裕和監督)が受賞。ヨーロッパ映画の受賞が多いなか、近年はアジア映画の健闘が光っている。そこで今回は、2000年代以降、カンヌで注目を集めたアジア映画を振り返ってみた。

 

『オールド・ボーイ』

作品ページを開く  韓国の映画監督、パク・チャヌクが、日本のコミックを映画化。第57回(2004年)カンヌ国際映画祭でグランプリ(パルム・ドールに次ぐ賞)を受賞したのが『オールド・ボーイ』だ。
 娘の誕生日に何者かに拉致されたオ・デス。気がつくと彼は窓のない部屋に監禁されていた。部屋にはトイレやベッド、テレビが設置されていて、扉の下からは食事が出される囚人のような日々。そんななか、テレビで妻が何者かに殺されたことを知ったオ・デスは苦しみ、自殺しようとするが、強制的に治療を受けさせられて死ぬことは許されなかった。そして、15年もの月日が流れた後、オ・デスは突然解放される。自分を監禁して、妻を殺した者は誰なのか。復讐に燃えるオ・デスは、限られた手掛かりを頼りに犯人を探し出していく。
 15年間監禁されるという異常なシチュエーションを発端に、先が読めないスリリングな展開に引き込まれて行く。そして、謎解きの果てに明らかになる壮絶な人間ドラマ。審査委員長のクエンティン・タランティーノが「できればパルム・ドールを授与したかった!」とコメントした本作は、そのパワフルな語り口に圧倒される。パク・チャヌクは後に『渇き』(09年)でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した。

 

『ブンミおじさんの森』

作品ページを開く  タイ出身の映画監督、アピチャートポン・ウィーラセータクンは、現代アートのクリエイターとしても注目を集める才人。そんな彼は『ブリスフリー・ユアーズ』(02年)で第63回(2010年)カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門でグランプリを受賞して注目を集めたが、タイ映画史上初めてパルム・ドールを受賞したのが『ブンミおじさんの森』(10年)だ。
 タイの田舎で農園を営むブンミは重い病気を患っていた。ある日、19年前に死んだ妻、フエイの妹のジェンと彼女の息子のトンと3人で食事をしていると、そこにフエイの幽霊が現れる。ブンミたちは驚くが、すぐにフエイと打ち解けて和やかに語らいあった。すると今度は、数年前に行方不明になったブンミの息子、ブンソンが森の精霊になって帰ってくる。異界から家族が集まってきたことで自分の死の時が近づいたことを知ったブンミは、フエイやジェン、トンたちと一緒に森の奥深くに入っていく。
 審査委員長のティム・バートン監督が「こんな映画は見たことがない」と驚いた本作は、ファンタジーとホームドラマと実験映画が融合したような摩訶不思議な物語。アピチャートポンによると、タイの怪奇漫画からも影響を受けたらしい。あえてチープにした特撮と研ぎ澄まされた映像美のコントラストが、白昼夢のような世界を生み出している。

 

『イロイロ ぬくもりの記憶』

作品ページを開く  シンガポール出身の監督、アンソニー・チェンの初長編作となる本作は、第66回(2013年)カンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞したほか、東京国際映画祭の観客賞や、台湾のアカデミー賞、金馬奨の作品賞など様々な映画祭で受賞した話題作だ。
 シンガポールの市営住宅で暮らす10歳の少年、ジャールー。両親は共働きで構ってくれず、ジャールーは家でも学校でも自分勝手に振る舞って問題ばかり起こしていた。そんな息子に手を焼いた両親は、幼い息子を置いてフィリピンから出稼ぎに来たテレサをメイドとして雇うことにする。最初のうちはテレサを困らせてばかりいたジャールーだが、一生懸命、自分に向き合おうとするテレサに次第に心を開きはじめる。しかし、父親が仕事をクビになったことをきっかけに、家族の絆に亀裂が入り始める。
 アンソニー・チェンはドキュメンタリーのようにリアルな演出で、ひとつの家族を通じて、外国人労働者、学校教育、核家族など、現代社会の様々な問題を浮かび上がらせていく。そして、そんななかで、テレサという異国の女性が、家族が忘れていた「ぬくもりの記憶」を思い出させてくれる。穏やかな語り口の中に、優れた人間描写が光る物語だ。

 

『岸辺の旅』

作品ページを開く  『回路』(01年)でカンヌ国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞。『トウキョウソナタ』(08年)は審査員賞を受賞したほか、これまで何度もカンヌ国際映画祭のノミネートされて、是枝監督と並ぶカンヌの常連、黒沢清監督。そんななか、湯本香樹実の小説を映画化した『岸辺の旅』は第68回(2015年)カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門で監督賞を受賞した。
 夫の優介が失踪して3年。瑞希は心に大きな穴が空いたまま孤独な毎日を送っていた。そんなある日、突然、目の前に優介が現れて、自分は富山の海で死んだと言う。優介は幽霊になって帰ってきたのだ。優介は行方不明になっていた間に、自分が見た美しい風景を瑞希に見せたいと瑞希を旅に誘う。そして、瑞希は優介の3年間の足跡を辿りながら、自分が知らなかった優介を発見していく。
 一見、幽霊とは思えないのに、幽霊に見えてくる優介を演じた浅野忠信の得体の知れない存在感が絶妙だ。そして、旅を通じて自分自身を取り戻していく瑞希を演じた深津絵里も、見事に役を掴んでいる。本作は「夫婦の絆を描いた感動の物語」という側面がある一方で、Jホラーの名手でもある黒沢らしい不穏な空気も漂っている。映画に出て来る幽霊は優介だけではなく、観客は瑞希と共に死者と生者が入り交じった異様な世界に迷いこんでいく。そして、優介の不倫相手(演じるのは蒼井優)が見せる生者の恐さも印象的だ。黒沢が2度受賞した「ある視点」部門とは、特異なテーマや作風の作品が選ばれる部門だが、本作は黒沢の奇才ぶりが堪能できる異色作だ。

欧米の映画通が注目している、個性的でバラエティ豊かなアジア映画。カンヌ国際映画祭を通じて、その豊かな才能に触れてみよう。

Text by 村尾泰郎