【旅と映画②】世界が流れるスピードを、あの日僕は手に入れた。/松谷一慶
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あの日観た映画に影響されて旅に出ることや、旅に出たことで観たくなる映画が増えることがある。「旅に出て知らない世界に飛び込むこと」と「映画を観て知らない世界に没入すること」は、どちらも自分の中の新しい扉を開いてくれる体験だ。

松谷一慶さんは、2013年から3年間、世界一周をした。訪れた国は100ヵ国以上。松谷さんはその世界一周の間に、何を観て、何を感じたのか。「旅と映画」をテーマに、世界を旅した思い出を振り返ってもらった。

今回は「世界一周の旅にでたきっかけ」について。

 

 

30歳、秋、出発の朝

「なぜ旅をしているの?」
「――――旅をするためです。」

出発の朝はいつだって気持ちがいい。荷物をくくりつけたバイクにまたがり、エンジンをかける。 数日間お世話になった留学時代の友人にお礼を伝えて別れる。手を振る姿がミラーに映る。

 
ロサンゼルスから30分も走れば、郊外のフリーウェイに出る。

目の前に青空が広がり、荒野へ続く長い道路をスピードをあげて進む。

さあ、いよいよだと思う。

 
アメリカからパナマまで、7000kmのバイク旅が始まったのは、ちょうど30歳の誕生日だった。

 

 

21歳、春、冒険への憧れ

大学3年生から一人暮らしを始めた。

ダンボールが散乱し、家具もまだそろっていない部屋で、実家から持ってきたテレビをつける。

 
眠れない夜にふと思いつきで映画を観はじめる、というずっと憧れていた行動を実現するための準備は万端だった。大人な自由さに浸るのにうってつけのロードムービーを近くのTSUTAYAで借りていた。

 
部屋の電気を消して、毛布にくるまり、再生ボタンを押す。それが映画「モーターサイクル・ダイアリーズ」との出会いだった。

 
作品ページを開く

 
心を奪われるのに5分もかからなかった。

映画は出発のシーンから始まる。大きなカバンに荷物を詰め、バイクに乗せる。家族と挨拶をすませて、エンジンをかける。ナレーションが入る。

「これは偉業の物語ではない 同じ大志と夢を持った2つの人生が しばし併走した物語である」

 
大学を休学し、友人と2人、バイクで南米大陸を縦断。

計画も立てず行き当たりばったりの若き日のチェゲバラの旅は、あまりにもかっこよくて、見終わった後もずっとドキドキしていた。

 
新しく手に入れた7畳半のワンルームが、世界に比べてあまりに狭く、退屈に思えたのを覚えている。