室町時代より続く能楽の名家・宝生流の宗家を継承した宝生和英さんにとって能楽の世界にも通ずる作品とは?
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POPLETAでは様々な業界、いろいろな業種の方に自身が影響を受けた作品や人物について話を聞いています。第25回は、室町時代より続く能楽の名門、宝生家に生まれ、能楽師としてだけでなく、マネジメントや経営、海外文化活動も行うなど幅広く活躍している宝生和英さんにインタビューしました。

対談者プロフィール

  • 宝生和英:1986年 室町時代より続く能楽の名門、宝生家に生まれる。2008年 東京藝術大学音楽学部邦楽科を卒業後、同年4月に宗家を継承。趣味は映画、写真、スキューバダイビングなど。伝統的な演出に重きを置く他、異流共演多数出演や復曲、公演演出なども行う。また能楽師としてだけではなくマネジメント・経営業務も行う。2016年東アジア文化交流使に任命され、香港・イタリアをはじめとした、海外文化活動にも力を入れている。2019年には松尾芸能賞新人賞を受賞する。
  • 水島裕:声優、タレント、プロデューサーとしてマルチな活動を展開。日本民間放送連盟賞(ラジオ・CM部門)や日本アニメグランプリ最優秀賞キャラクター賞を受賞。代表作はサモ・ハン・キンポー作品の吹き替え、タイムパトロール隊オタスケマン(星野ヒカル / オタスケマン1号)『六神合体ゴッドマーズ』(マーズ/明神タケル)他多数の主役を務める。TBS系列『ひるおび!』(月~金:10時25分―13時50分)では毎日ナレーションを担当。またYouTubeにて『裕にいちゃんねる』)も開設中。

 

宝生さんの中のディズニー“三大プリンセス”

水島:一番最初に好きになったアニメは何でしたか?

宝生:『リトル・マーメイド』ですね。

水島:あっ、僕はタツノオトシゴの役を演じていました!

宝生:もちろん存じております(笑)。子どもの頃からディズニーの作品が好きで、特にプリンセスの存在に魅かれていて、『リトル・マーメイド』と『美女と野獣』と『アラジン』を僕の中で“三大プリンセス”と位置付けしていました。

水島:三大プリンセス!? 家元、面白い! 小学生の頃から?

宝生:はい(笑)。『アラジン』に関してはそれこそ小学生の頃に完璧に耳コピーをして、セリフから歌まで全部言えるくらいでした(笑)。

水島:凄い! そこまでのめり込んでも一番好きなのは『リトル・マーメイド』ですか?

宝生:そうですね。元々海が好きなのと、やっぱりプリンセスの中でもアリエルが一番好きなので。

水島:アリエルに魅かれたところはどこですか?

宝生:やっぱり歌ですね。アラン・メンケンの曲です。それこそ僕は反射的にアラン・メンケンの曲を聴くと泣いてしまうくらいなので(苦笑)。

 

能楽は“勝者”ではなく“敗者”を演じる世界

水島:小学生から洋楽を聴いて涙とは……。ちなみにゲームは何が好きでしたか?

宝生:ゲームが凄く好きになったのは中学生くらいからで、『ポポロクロイス物語』と『アークザラッド』と『幻想水滸伝』の3作品ですね。

水島:その3作品で共通する好きなところは?

宝生:ストーリーですね。“優しい悪”の部分と言いますか、僕の中ではあまり“ヒーローもの”が好きじゃないので。

水島:それはまたなぜ?

宝生:“ヒーローもの”にありがちな勧善懲悪の世界が僕の中であまり面白くないと申しますか……おそらく捻くれている人間なんでしょうね(苦笑)。

水島:でも能の世界って、それこそ勧善懲悪が舞台なのでは?

宝生:違うんですよ。歌舞伎は勧善懲悪ですが、能楽は真逆でして正義を“勝者”とするならば悪の“敗者”の方にスポットをあてる世界なんですよ。

水島:へぇー! 能楽は深いなぁ……。

宝生:そのせいか昔から“悪”という敗者の存在に惹きつけられて、小中と演劇部に所属していたので、率先して悪役を演じていました(笑)。

水島:幼少期から能の舞台に立ちながら、学校では演劇部にも所属していたのですか!?

宝生:はい。演劇の部分はディズニーの世界への憧れもあったので。能に関しては舞台に上がれば親からゲームソフトを買ってもらえるから演じていたようなものでした、当時は(苦笑)。

 

『ガンダム新機動戦記ガンダムW』がきかっけで声優に憧れた

水島:家元がこの能楽の世界を継ごうと意識されたのはいくつくらいからですか?

宝生:継ぐというのは“そういう選択肢もある”くらいに考えていて、本気で継ごうと思ったのは大学生の頃くらいからですね。

水島:でも能楽の世界に生まれて、選択肢ってあるんですか?

宝生:僕の中ではありました。やる気も才能もない人間が能楽の家元を継いでもお互いプラスにはなりませんから。それならやる気があって能楽の世界をしっかりと導いてくれる方がやるべきだという思いがずっとあったので。

水島:能の世界って、それが認められるのでしょうか?

宝生:当時は僕が家元になるまで8年くら家元不在の時期がありましたので、そういう状況にならざるを得ないのも見てきたので。

水島:家元不在の時期があったのは知っていましたが、そんなに長かったんですね……。

宝生:それこそ「火中の栗を拾う」じゃないですが、相当な覚悟がないと継ぐ事ができない世界でしたから。その頃、中学生だった僕は『新機動戦記ガンダムW』を観て、声優への憧れも持っていましたね(笑)。

水島:声優への憧れが僕の出ていない『ガンダム』なのが悔しいなぁ!

宝生:(笑)。僕の好きな『リトル・マーメイド』のアラーナや『ポポロクロイス物語』のピエトロ・パカプカを演じていた高山みなみさんが主題歌を歌っていたのも『ガンダム』が好きになったきっかけでもあったので。

水島:みなみならこの同じインタビューを受けたてくれましたよ。

宝生:わっ! それは凄い! なんだか緊張してきました!

水島:いまさらですか?(苦笑)。

宝生:とにかく声優さんはいろいろな表現で「えっ!? このキャラクターもあの声優さんが演じていたの!?」って驚かされるばかりで。高山みなみさんはもちろんですが、裕さんも少年の役からダンディーな役、それこそタツノオトシゴまで演じ分けていますし(笑)。

 

『ARIA』で生き方を整える

水島:人間以外の仕事も結構あるので…(苦笑)。ちなみにいま観ているオススメのアニメはありますか?

宝生:天野こずえさんの作品の『ARIA』ですね。

水島:おすすめのポイントは?

宝生:家元になり、そして大人になって色々と社会で振り回される事もあるんですよ。そんな時『ARIA』の日常から見つける自分の幸せの部分に対して、現状の自分の生き方を整え、日常を見出すために観ていて。その部分がオススメのポイントでもあります。

水島:日常を見出すためか…いい観かたするなぁ……。

宝生:でもそうなれるのも、声優さんがキャラクターの中に入って同一化する凄みを感じられるからですね。

水島:でもそれって能楽の世界にも通ずるところがあるのでは?

宝生:まさにそうなんですよ。能楽の世界は役を演じるのではなく、神様や霊が主軸なので“憑依される感覚”に近いと思うんですね。だから個人が俳優のように絶対に前にでてはいけない。

水島:なるほど。役者としての宝生和英という人間が前に出てはいけない世界なんだ。

宝生:もっと言えば能楽はお客様の心の中に映される世界なんですね。美術館の絵がしゃべらないのと同じ世界で、能楽もその時のお客様の感情によって、同じ演目でも観るたびに変わっていく。つまり主役が我々演者ではなく、お客様が主役なのが能楽の世界なんです。

水島:いや~、能楽の世界って本当に面白いなぁ……。

宝生:お客様が辛い時や悲しい時に「我々演者を観ろ!」だと、演じている事全てが邪魔になってしまいますから、その都度の心の気持ちで観て感じていただければと。


宝生和英さんが書いた『ARIA』のPOP