KADOKAWAの代表取締役副社長・井上伸一郎氏の記憶に鮮明に残る作品とは?
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POPLETAでは様々な業界、いろいろな業種の方に自身が影響を受けた作品や人物について話を聞いています。第26回は、株式会社KADOKAWAの副社長であり、KADOKAWAグループのIP事業を統括する井上伸一郎さんにインタビューしました。

対談者プロフィール

  • 井上伸一郎:1959年東京生まれ。1985年アニメ雑誌『月刊ニュータイプ』の創刊に副編集長として参加。以後、女性情報誌『Chou Chou』、漫画雑誌『月刊少年エース』の創刊編集長などを歴任。07年1月(株)角川書店 代表取締役社長に就任。19年4月(株)角川グループホールディングス(現(株)KADOKAWA)代表取締役副社長に就任し現在に至る。書籍、映像などKADOKAWAのコンテンツ系事業を統括すると同時に、一般社団法人 外国映画輸入配給協会(外配協)会長職など業界団体の要職も多数。
  • 水島裕:声優、タレント、プロデューサーとしてマルチな活動を展開。日本民間放送連盟賞(ラジオ・CM部門)や日本アニメグランプリ最優秀賞キャラクター賞を受賞。代表作はサモ・ハン・キンポー作品の吹き替え、タイムパトロール隊オタスケマン(星野ヒカル / オタスケマン1号)『六神合体ゴッドマーズ』(マーズ/明神タケル)他多数の主役を務める。TBS系列『ひるおび!』(月~金:10時25分―13時50分)では毎日ナレーションを担当中。

 

ウルトラシリーズで一番好きなのは『ウルトラセブン』

水島:井上さんが子どもの頃、一番印象的だった番組は?

井上:『ウルトラマン』ですね。『ウルトラQ』も含め、全ウルトラシリーズを見ていたので、夢見がちな子だったのでしょう(苦笑)。

水島:ちなみにウルトラシリーズで好きな怪獣はなんですか?

井上:好きな怪獣はたくさんいるのですが『Q』だとパゴス、ペギラといったありきたりなところと…。『マン』だと同じ系統になるネロンガやマグラーとか。ドッシリとしたタイプの怪獣が好きですね。

水島:では、ウルトラシリーズで一番好きな作品はなんですか?

井上:やっぱり『ウルトラセブン』ですかね。設定が暗いから (笑)。

水島:設定が暗いといえば『愛の戦士レインボーマン』はご存じですか?いまじゃ暗いというか、テレビでは流せないような設定の作品ですが…。

井上:もちろん見ていましたよ。アニメ版は水島さんが主題歌とエンディングを歌われていた。実写版では、悪の組織「死ね死ね団」が偽札を大量にばら撒いて、日本にハイパーインフレを起こし、日本経済を破綻させるとか。それを1話完結ではなく何週も続けて子どもたちに見せるとか…(苦笑)。

 

『エイトマン』を観てから一人称が「私」に

水島:最初にぐっときたアニメ作品はなんでした?

井上:『エイトマン』が好きでしたね。

水島:これもいまじゃ考えられないような作品ですもんね(苦笑)。主人公が平然とタバコを吸うポーズとか…(笑)。

井上:あの頃はみんな大人がタバコを吸うのが当たり前のような時代でしたからね。ただ、アレはエイトマンの動力源である小型原子炉を冷却するための強化剤ですから。もっと恐ろしい設定ですけど(笑)。

水島:これまた詳しいですねぇ~!(驚)。ちなみに『エイトマン』に一番魅かれた理由は?

井上:桑田次郎さんの描くキャラクターがかっこいいところですね。手塚治虫さんや横山光輝さんの絵も大好きですが、それよりちょっと大人っぽい絵といいますか。それとお洒落なタッチも好きでした。

水島:この『エイトマン』から影響を受けたところはありますか?

井上:エイトマンが自分の一人称を「私」と言っていたので、子どもの頃から自分のことを「私」と呼んでいました。あの頃のアニメなんかだと「僕」がほとんどでしたが、あまり一人称で「僕」とは言いたくなかったのと「俺」って呼ぶタイプではなかったので。

 

『大怪獣決戦 ガメラ対バルゴン』から学んだこと

水島:ちなみに子どもの頃に観た映画で印象に残っている作品はなんですか?

井上:『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』ですね。1966年に公開されたガメラシリーズの第2作目。同時上映は『大魔神』ですね。

水島:よくそこまで詳細に覚えていますね。どの部分が印象に残りましたか?

井上:ガメラは子どもが好きで、子どものために戦うという設定なのですが、この『ガメラ対バルゴン』だけは子どもが出てこないんですよ。きっと、まだシリーズが定着していなかったからでしょうね(笑)。

水島:なるほど(笑)。

井上:「ガメラ」第1作のラストは「Z計画」といって、通常兵器が通じないガメラを、巨大ロケットの先端のカプセルに閉じ込めて宇宙に送り出すというものでした。それだけの技術力があれば、地球上でなんとかなるだろうと思いましたね(笑)。「ガメラ対バルゴン」は、戦時中に、南の島のニューギニアでオパールを隠している日本兵達がいて、それを20年経ったから掘り起こしに行く事になったけど、もうその一団が裏切りの連続でね。

水島:なんというストーリーだ…(苦笑)。

井上:そこで「ああ…悪い事はしちゃいけないな」と学べたり(笑)。それもあり、全く子どもに阿っていない作品という部分が、子ども心に印象深くてよかったですね。

水島:「ガメラシリーズ」の中でもこの作品が一番好きですか?

井上:「平成ガメラ」は別として、「昭和ガメラ」では、この『ガメラ対バルゴン』が好きです。バルゴンはガメラに対して、舌先から零下100度の冷凍液を浴びせて凍らせるなど、とても強いのですが、弱点が「水に弱い」というね。ワニやトカゲをモチーフにした水に強そうな怪獣なのに、なんでだよって(笑)。

水島:説明が最後まで面白過ぎといいますか、本当に記憶力が凄いですね!

井上:実生活に関してはあまり覚えていないのですが、映画やテレビや本のストーリーはわりと鮮明に覚えてしまいます(笑)。

 

映像の美しさに感銘を受けた『灰とダイヤモンド』

水島:若い頃、影響を受けた映画はなんですか?

井上:いろいろとありますがアンジェイ・ワイダ監督の『灰とダイヤモンド』ですね。私は昔から目が悪かったのですが、二十歳を過ぎてメガネをかけたら世界がクリアに見えて、スクリーンもよく見えるようになって(笑)。その頃はいろいろ観に行っていましたね。

水島:そうだったんですか(笑)。『灰とダイヤモンド』はどこに一番響きましたか?

井上:最後に主人公が撃ち殺されるのですが、その場所が白いシーツがたくさん干されている屋上で、撃たれながらそのシーツにくるまると鮮血が染みて絶命して終わる。その映像の美しさに感銘を受けました。

水島:自身の映像美に響くと印象に残る作品になりますよね。また時間が経つにつれて作品の見どころが変わってきた作品とかはありませんか?

井上:『ローマの休日』なんかは、最初はロマンチックで素敵な作品といった印象でしたが、何度も観るうちに、グレゴリー・ペックがペプバーンと最後にお別れをして歩いていくラストカットが、陰鬱な気持ちになってしまうようになり…(苦笑)。

水島:それはどうしてですか!?

井上:自分の心境の変化を分析した事はないのですが、観るたびに気持ちが変わる作品でして。最近観ると気持ちよく観られましたし。そもそも大好きな作品であり、そんな不安な要素に陥るような作品ではないのに(苦笑)。あとはルキノ・ヴィスコンティ監督の『ベニスに死す』も大好きな作品ですね。

水島:えー!僕が一番最初にアテレコをした洋画の作品です。

井上:えっ!? まさかポーランド貴族の美少年、タジオじゃないですよね?

水島:そうです、そのタジオです。

井上:ドンッ!!(※机を叩く)。素晴らしい!水島さんはビョルン・アンドレセンだったわけですね!

 

角川映画『時をかける少女』に影響を受けて

水島:邦画で影響を受けた作品はなんですか?

井上:やっぱり世代的に角川映画ですね。高校3年生の時に『犬神家の一族』を観て、20代前半の頃に薬師丸ひろ子さんや原田知世さんの一連作品を観ました。特に『時をかける少女』には影響を受けましたね。いかに効率的に原田知世さんに会えるかと考えて、角川に入ったくらいに(笑)。まぁ半分はジョークとしてのネタですけど(笑)。

水島:(笑)。角川に入られて影響を受けた人や作品はなんですか?

井上:やはり担当をしていました『機動戦士ガンダム』の富野由悠季さんには非常に大きな影響を受けましたね。元々『海のトリトン』とか、私がこの世界に入る前から好きで見ていたアニメ作品を作ってきた方ですので憧れもあって。仕事でご一緒させていただけてラッキーでした。

水島:あれだけの方になりますと担当時代は結構大変だったのでは?

井上:お会いする前は周りから「めちゃめちゃ怖くてめちゃめちゃ怒る人」とか聞かされていましたが、最初にお会いした時の事はいまでも覚えていて…。富野さんはサンライズから少し離れた場所に個人事務所のマンションを持っていまして、そこに取材で尋ねたら留守で。戻って来られた時、ニコっと笑って喫茶店に連れて行ってもらい、初めて取材をさせていただきました。富野さんと波長が合ったのか、全然怖い方ではなく「ああ…怒られずに済んで良かった…」と思ったのを覚えています(笑)。

 

『聖戦士ダンバイン』ほど実験的で面白い作品はない

水島:富野さんの作品の中で一番好きなものはなんですか?

井上:『聖戦士ダンバイン』ですね。この作品はいろいろなものを先取りしていて。ロボットアニメながらファンタジーな世界なんですけど、その後の日本のサブカルチャーの要素がかなり詰まっています。しかし当時は、アニメファンにもスポンサーにもあまり世界観が理解されず、途中でわかりやすい話に路線変更された作品でして。ただこの作品ほど実験的で面白い作品はないと思っています。

水島:それは興味深い作品ですね!

井上:富野さんは非常に面白い方で、自分の作品がまだ放映中でも制作の途中でも、冷静に分析されるんですよ。普通クリエイターってシリーズの最中は夢中で作るから、悪いところが見えなくなるじゃないですか。でも富野さんは『ダンバイン』の時、主人公のショウ・ザマが1話目で異世界のドレイク・ルフトの城で一晩寝て、翌日起きてから活動を始めるシーンに対して「あれは一晩寝たのが良くなかった」、「あの人一晩寝たでしょう…」と独特の言い回しで語るわけです。いやいや、 寝かせたのはアンタでしょうと(笑)。

水島:(笑)。

井上:あそこで寝たから、視聴者をクールダウンさせてしまい話の弾みがつかなかったと分析するわけですね。私としては、そういった思考を聞くたびに勉強になりました。

水島:井上さんもそう思われて見ていたのですか?

井上:話の流れとしては不自然じゃないですけど、富野さんからこの話を聞いた後は、すぐに戦場のど真ん中に転生したり、決闘のシーンに飛び込んで訳も分からない内に戦ったりした方が良かったのかなと思いました。異世界や転生ものは現在小説やアニメでも大流行しています。やっぱり30年以上前にブーム先取りをしていたこの作品は素晴らしいですね。

井上伸一郎さんが書いた『聖戦士ダンバイン』のPOP

 

驚異の記憶力で、好きだった作品や思い出を語ってくれた井上さん。皆さんには、人生に影響を与えた作品や人物はいるでしょうか? もしまだ出会えていない人がいたら、このPOPLETAで素晴らしい出会い、発見があるかもしれない。POPLETAであなたの人生に影響を与えてくれるクリエイターや作品との出会いを探してみてくださいね!

プロフィール

井上伸一郎
1959年東京生まれ。1985年アニメ雑誌『月刊ニュータイプ』の創刊に副編集長として参加。以後、女性情報誌『Chou Chou』、漫画雑誌『月刊少年エース』の創刊編集長などを歴任。07年1月(株)角川書店 代表取締役社長に就任。19年4月(株)角川グループホールディングス(現(株)KADOKAWA)代表取締役副社長に就任し現在に至る。書籍、映像などKADOKAWAのコンテンツ系事業を統括すると同時に、一般社団法人 外国映画輸入配給協会(外配協)会長職など業界団体の要職も多数。

水島裕
声優、タレント、プロデューサーとしてマルチな活動を展開。日本民間放送連盟賞(ラジオ・CM部門)や日本アニメグランプリ最優秀賞キャラクター賞を受賞。代表作はサモ・ハン・キンポー作品の吹き替え、タイムパトロール隊オタスケマン(星野ヒカル / オタスケマン1号)『六神合体ゴッドマーズ』(マーズ/明神タケル)他多数の主役を務める。TBS系列『ひるおび!』(月~金:10時25分―13時50分)では毎日ナレーションを担当中。