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【私の転機となった作品】西の魔女に教えてもらった、大切なこと。
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長い長い人生において、どんな出来事が転機となり、その人の人生に影響を与えていくのかは分からないもの。そのときには分からなくても、後になってから「あれが転機だった」と気づく瞬間もある。大きな転機もあれば、小さな転機もある。人生は転機の連続だ。それなら「作品との出会い」だって、転機となりうるはず。

今回は、イラストレーター・アーティストとして、ドイツを拠点に活動するKiKiさんに「私の転機となった作品」についてエッセイを書いてもらった。
 

 
小さい頃の夢は、魔女になること。

――魔女になって箒で空を飛んだり、魔法の杖で願いごとを叶えたりするには、どうしたらいいのだろう。子供の頃、それを調べるため、タイトルに「魔女」「魔法使い」と書いてある本を片っぱしから読んでいた。

そんなある日の学校の図書館で、この映画の原作・梨木香歩さんの小説『西の魔女が死んだ』に出会う。
 
ストーリーは、学校に馴染めず不登校になった主人公「まい」が、田舎のおばあちゃんのお家に行き「魔女修行」をするというもの。どんな「魔女修行」をするのだろうと、ドキドキしながら読んだ。しかしそこには残念ながら「箒で空を飛ぶ方法」や「魔法の杖」については書いておらず、代わりに「人生を歩んでいく上で大切なこと」が、たくさん書かれていた。

西の魔女は、こう教えてくれた。

『魔女は自分で決めるんですよ』
 
悪魔を防ぐためにも、魔女になるためにも、いちばん大切なのは意思の力。自分で決める力、自分で決めたことをやり遂げる力です。その力が強くなれば、悪魔もそう簡単にはとりつきませんよ。

 
――『西の魔女が死んだ』より

 
この本に出会ったとき私はもう中学生で、魔女にはなれないということについて、実はほとんど気付いていた。だから、この本を読んだ時に「魔女」ではなく、「西の魔女みたいな大人になりたい」という夢に変わったのだった。
 
以来、『西の魔女が死んだ』は私にとって、大切な人生のバイブルなのである。
 

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『魔女は自分で決めるんですよ』

私の地元は限界集落だ。小・中と学校に通うのも、ひとつ山を越えて行かなくてはいけなかったが、公共交通機関が皆無。私を含めた4人の子供たちは、村の教育委員会の援助を得て、タクシーで9年間通学した。

高校から地元を離れて、下宿生活を始めた私は「自分で決める」シーンが多くあった。最終的に地元に戻って働くということが難しい環境なので、自分の居場所を探して旅に出る必要があったのだ。

何かに迷ったり、困った時は、『西の魔女が死んだ』を手に取った。そうして、「自分で決めるんだ」と、再度自分と向き合った。

「芸術の道に進む」と決めて美大に進学した年に、『西の魔女が死んだ』が映画化された。文章で読んでいた世界が、とても丁寧にそのままそこにあって、とても感動したのを覚えている。西の魔女を演じていた、サチ・パーカーさんのような柔らかい笑顔が似合うおばあちゃんになりたい、という夢も加わった。
 

願っていた事柄は、気づいたら現実になっていたり、近くにいたりする。

「西の魔女」の教えを守って自分が決めたことをし続けていると、出来事について多少の似てる・似てないがあったり、大きい・小さいはあるけれど、願っていた事柄は、気づいたら現実になっていたり、近くにやってきていたりする。

例えば、魔法の杖は持っていなかったけれど、イラストレーターになること・文章のお仕事をするこという夢は、まだまだな部分がたくさんあることは十分承知しているけれど、小さいながらも叶っていて、今もすくすくと育っている。

相変わらず箒で空は飛べないけれど、飛行機に乗って遠くまで一人で旅に出るような人生を送り、今は2年前にドイツ・ベルリンに辿り着き、生活をしている。

 
最近では、ベルリンに来て3度目の引越しをした。

ベルリンではWGと呼ばれるシェアルームに住むことが一般的で、新しい同居人は、とてもパワフルな2人のドイツ人女性だ。彼女たちは、”小さなお庭”を別に借りていて、そこで無農薬の野菜や果物を育て、お茶やジャム、食べるものを全て手作りしている。

引っ越してきたその日から、2人は”小さなお庭”に招待してくれて、「この野菜たちは、完全に無農薬だから、皮も食べられるのよ」「このお花からはオイルが採れるの」「ハーブティーにもなるし」「お酒にも、シロップにもなるのよ」と、一つずつ丁寧に説明をしてくれた。

 
……あれ、この様子はとてもよく知っている。
そう、映画『西の魔女が死んだ』で見た、おばあちゃんの庭での生活とそっくりなのだ。
彼女たちは「100歳まで元気に生きたいの」と笑っていた。

お腹を空かせて自分の部屋から出て、キッチンに寄ると、「お花のサラダ」や「体をポカポカにしてくれるミントのシロップ」「風邪を引いたら飲むハーブティー」たちと一緒に、いつも暖かく迎え入れてくれて、そして様々な知恵を教えてくれる。

 
自分の今までの人生を振り返ると、そういう不思議な巡り合わせが結構ある。
もしかしたら、小さい頃に想像していた「魔法」とはちょっと違うけれど、これが現実に確かに存在する「魔法」で、西の魔女の修行は、本当に「魔女修行」のことだったのかもしれない。

 
その答えは、まだわからないけれど。

変わらず物事は自分で決めて、ただただ、丁寧に毎日を生きていく。
私の魔女修行は、まだまだ続いていく。

 

text by KiKi

プロフィール

KiKi
イラストレーター・アーティスト・文章も。
2016年夏より、ドイツ・ベルリンに拠点を移す。旅をするように、生きています。
HP: http://kiyonosaito.com/
Twitter: @kikiiiiiiy
instagram:@kikiiiiiiy