モルタルレコード店主・山崎育宏が語る地元・熊谷にこだわる理由と原動力となった楽曲
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2001年に開店。以来、北埼玉の重要な音楽発信基地として本格稼働。ライブやイベント企画、店舗2階でのライブ運営やPA。レーベル、はたまたこの2018年10月7日(日)には彩の国くまがやドームにて、音楽のみならず、ファッションやフードも絡めた、まちおこし的音楽フェス<WAKE UP FES 2018>にも実行委員長として参画しているモルタルレコード。その店主がこの山崎育宏(やすひろ)氏だ。

今をときめくアーティストを含め、沢山のアーティストたちが世話になり、多くの個性的なアーティストが見出され、輩出され、発信されてきた同店。同時に近郊地区の重要な音楽情報発信基地的な役割も担っている。それまでは都内まで出かけ得ていた情報類もここで事足らすことができ、さらにここでしか得られない、体験できない情報やライブも多くあったりする。その評判は全国区。全国各地から訪れるお客さんやアーティストも多い。

振り返ると、この店の前史から熊谷にこだわり、情報を発信し、地元の音楽好きを育てる活動を行なってきた山崎氏。今の時代、一見不合理に映る方法論や手法を続け、常に店を保持してきた。何故それらにこだわり、貫き、行い続けるのか? 彼はその先に何を見ているのか? これまでなかなか見えにくかった、これまでの彼も振り返りつつ、山崎氏をここまで突き動かしている、その原動力的な楽曲の紹介も交えて贈る。

 

——山崎さんには、常に故郷の熊谷での音楽発信にこだわってきた印象があります。

実は元々は僕、東京生まれなんです。そこから小学校高学年の頃から熊谷の近くの深谷に移り住んで……。

——意外です。てっきり生まれも育ちも熊谷なので、熊谷にこだわっているのかと。では、いつ頃から熊谷から音楽発信をし始めたんですか?

高校卒業後、理容師の専門学校に行ったんです。実家が床屋だったもので。で、卒業してそこを継ごうと深谷に戻ってきたんですが、やはり音楽の夢も捨てきれず。また東京に出て、まずはあるアーティストのマネージメント事務所で働いたんです。でも、そこがちょっと合わなくて……。挫折して、「音楽は、もういいや……」と、一度また深谷に戻ってきたんです。そこで悶々としていたところ、幼馴染のレコード店のスタッフが、「一緒に働こうよ」と誘ってくれて。そこからまずは深谷の店舗で働いたんです。次に熊谷駅ビル店に転勤になり……その頃ですね、イベントを始めたのは。熊谷のHEAVEN’S ROCKというライブハウスで、よくCDの即売をやっていたんで、それが縁でイベントもやるようになったんです。

——それは時期的には?

1990年代末頃ですね。その頃ちょうどパンクのシーンで、<AIR JAM>世代以降の新世代のパンクバンドたちが現れてきたんです。彼らの姿勢や勢い、「なんかやってやんぜ!!」的なギラギラした部分に惹かれて、応援の意味で彼らのイベントをやり始めました。でも実は、その裏には、地元のパンクバンドを共演させたり、フックアップしたい狙いもあって。一緒に熊谷の音楽シーンも活性化させたいなって。そこぐらいからですね。地元のバンドを応援したり育てていき出したのは。

——それらを経て、2001年にモルタルレコードを立ち上げたわけですね?

ですね。開店した頃は周りから、「インディーズブームは終わる」と言われ始めた時でした(笑)。でも僕は、まだ続いていくと信じてました。逆に、「ここからでしょう!!」ぐらい。お客さんをキチンと作っていけば、時代に左右されずに残っていける。そんな妙な確信があったんです。なので、最初はCDを売るというよりも、お客さん作りから始めました。これは今も変わらないんですが、この店も、もちろん販売店ではあるんですが、ある種のサロンや情報交換や色々と発見できる場でありたいと考えていて。あとはイベント発信ということもあり、ライブハウスでライブを演っているアーテイストがカッコイイと感じてもらえるシーンを作りたかったんです。なので、「世の中ではあまり認知がないけど、熊谷では超有名なバンドを作っちゃおう!!」とか。それが実際、実現できていたし。他の会場ではお客さんがあまり入らないアーテイストでも熊谷だけは満員になったりしてましたから。おかげさまで、それらが口コミで、アーティストが他のアーティストに声をかけたり噂にしてくれたりで、一緒に進ませてもらいました。最大は関東で月に27本の企画を打ったこともありましたね。

——もう本業じゃないですか!! ここまでで何か苦労はありましたか?

メジャーに行くとCDが店舗に置けなくなることですね。物流の問題で、この店ではメジャーのCDはメーカーさんから卸してもらえないんです。でもそれもいい意味でここから次のステップへの卒業と捉えてます。ここからは多くの大人が応援してあげるでしょうから。逆に「自分はやはり、これからもまだ大人に見向きもされないアーティストを自分だけは信じて応援し続けていこう!!」との決意にもなってるし。かえって自分が応援していくべきアーティストを探していく姿勢が逆に強硬になっていきましたね。で、大きくなったら、また新しいアーティストを探して、と。その繰り返しでここまで来た感はあります。

——端から見ると、それらはほぼボランティアに近い活動に映ります。何故そこまでやるんですか? ご家庭もあるし、絶対にもっと違った選択肢の方が生活的も楽そうじゃないですか。

今のスタイルは、ビジネスにはなりませんが、ストレスにもなりませんから(笑)。なので、僕はそちらを選びました。それもあり、僕がつき合っているアーティストさんたちは基本、クッションなしで色々と直接連絡がとれるアーティストさんたちばかりなんです。そんな中、今僕の中で燃えているのは、新人はもちろんですが、遅咲き、返り咲きを、どうもう一度一緒にやることで花を咲かせられるかってことですね。

——それは?

こう称すると失礼かもしれませんが、一時はいいところまでいったんだけど、また今自分たちだけで活動しているアーティストさんや、永くやっているけどいまいち人気が出切れていないアーティストさんたちと、「一緒に大きくなろうよ」「もう一度、花を咲かせようよ、色々と応援するから」、そんな間柄を作りたくて。それってけっこうドラマティックじゃないですか(笑)?

——成功したら、かなりドラマティックです。加えて今の山崎さんは、シンガーソングライター陣も推してますよね?

今、このシーンは熱いですよ!! 彼、彼女たちの方が精神的にはよっぽどパンクです。DIYでほぼ一人で何でもやる。しかも、誰でも始めやすいだけに群雄割拠してますから。そこで、「生き残ってやる!!」「続けてやる!!」との意欲や根性、あれはまさにパンクです。もう、目がギラギラし、何ごとにもガツガツしてますから、みんな(笑)。そういったアーティストのために何かできないか? と、今色々と動いてます。MOROHAにしても、クリトリック・リスにしても、そこからの出会いでしたからね。竹原ピストルさんも紅白に出た後にモルタルでライブを演ってくれたり。逆にあの律義さとフットワークの軽さ、心意気もシンガーソングライターならではかなって。

——みなさん、大きくなっても、恩返しのように、モルタルレコードでライブを演ってくれてますもんね。

そこまで付き合いが出来るのが本望です。色々な人と知り合いたい、広く知らしめたいわけじゃなく、逆に、今関わったり信じて一緒に歩いてくれている方を、どう今より大きくしてあげられるか? そっちの方が今の僕にとっては大事ですから。

——そんなモルタルの2階では頻繁にライブが行われていますが、あれはいつ頃から始められたんですか?

元々そんな気はなかったんです。でも、気づけば3年ぐらい前から本格的になってました。発端はその数年前に起こった東日本大震災で。その時に節電の関係で熊谷のライブハウスでのライブが一斉に中止になったんです。でもせっかくだから、アコースティックでやっちゃおうよ、と。ろうそくの中、始めたのがキッカケでした。そこから「モルタルの上でライブが出来る」「ライブをやった!」と広まり、いつの間にか(笑)。ブッキングにしても、自分が声を掛かける場合もありますが、おかげさまで仲間が仲間を呼んでって感じで、どんどんスケジュールが埋まってくれてます。それが熊谷で出来ていることが嬉しいですね。あっ、PAも僕やる場合が多いです(笑)。

——おおっ、さすがはDIY精神!! 凄いです。そんな中、今回、再び音楽レーベルも始動させましたね。

5年ぶりかな? 一人は福島はいわきのシンガーソングライターでアサトアキラ(2018年9月5日発売ミニアルバム『ロックンロールに嫌われたから』)というどちらかと言うと切ない感じの曲を歌っている子と、あとは、地元熊谷のりさボルト&Hys(2018年9月5日発売ミニアルバム『あたらよ』)の女性シンガーソングライター2人組の2枚を同時に出しました。2組とも最初はどこか出し先を紹介してあげるつもりだったんです。で、実際動いてみると、色々なところから「売れるのか?」とか「売れる作品にしてくれ」「ある程度、ネームバリューのあるものじゃないと……」みたいな返答ばかりだったんです。売れる音楽とアーティストがやりたい音楽って必ずしもイコールではないですからね。元々僕の考えは、「売れる音楽を売る」じゃなくて、「売れないと言われても売れるように頑張る」ですから。それが僕が学んできたインディーズ精神やパンクでもあって。で、あえてそれを流通に乗せたかったんです。

 
——それは?

シンガーソングライターは頑張れば、手売りで1000枚〜2000枚を売っちゃう子たちっているんです。で、それだけ売れればギリギリ食べていけたりもするし、あえて実入りの減ってしまう全国流通に必要性を感じないアーティストも多いんです。でも、それだとやはり自分の活動範囲のみで、そこから外の色々な人たちに知られない。しかし、やはりそれ以外にも知って欲しいし、地方等でライブに行けず、自分たちを観たことのない人にも知ってもらいたい。その為にもやはり全国流通は大事なんです。それによって、もしかしたら自分の行動範囲外の場所でも、試聴機に入れてもらったり、たまたま手に取ってもらったり、ショップの人に応援してもらえる可能性もある。それって実は、原初的ですが、次へと繋げたりより広がりをもたらしたりする上で、とても大事なことでもあるんです。どこかのお店には、もしかしたら、僕みたいな人間が居るかもしれないじゃないですか(笑)。

——でもそれは売れたり人気のある作品、既に話題性があったり、店員さんが既知である以外のCDが、なかなか店頭に並びづらいこの時代、一番ハードルが高く、しんどいし効率が悪い行為のような気も……。

そうですか? 当人は全然そんなこと感じてないですよ(笑)。でも実際、流通を探すのも一苦労でした。正直、シーンのメインストリームな音楽ではないので、「今の時代に、この音楽を出すの?」と訝しがられたり、センスを問われたりすることはありました(笑)。でも、自分はこれに対して、何か思うものや思い入れがあるからやるわけで。そこにあまり苦労や労力と感じたことはないですね。

——で、いよいよ2018年10月7日(日)には彩の国くまがやドームで<WAKE UP FES 2018>を行いますね。

「地元で何かやりたい!!」と熊谷市の職員になった知人から「くまがやドームを押さえましたから!!」との連絡が来て。集まった実行委員会で運営しています。その中で最も音楽のイベントに携わってきたのが僕だったので、僕が今、なんとなく代表をやっている感じです。まあ、僕は比較的時間も自由なので(笑)。それぞれが今持っている自身の環境や状況、それをみんなで情報交換することで、色々なことが出来たり、広がりや繋がりが生まれたりしたらいいなと思い始めました。

——これはどんなイベントなんですか?

入場券の代わりにラバー製のリストバンドを買ってもらい、それで色々なことを楽しんでもらうフェスです。基本は音楽を使ってのまちおこし的な意味合いもありつつ、それらを通して街の人と人との繋がりを作るのが目標で。ファッションもフードもあって、熊谷の内外の人に色々と情報を得てもらって、そこ自体を大きなサロンやコミュニティの場にしてしまおうと。お客さんが店を知るだけでなく、お客さん同士、お店同士も繋がりをもってもらったり、情報を発信したり、交換し合う場所にしたくて。僕としてはある種、音楽を使った縁日だとも捉えてます。

——それは?

縁日ってお小遣いをもらい、その範囲内でどれだけ後に自分が満足できるものを買えたか? じゃないですか。例えば500円あるから、あれとあれとあれを買おうと赴くも、意外と予定にないものを買っちゃって、それが後に自分にとっての掘り出し物になったりする。それがこのフェスで出来たら本望です。音楽を聴きに集まった方々が、エリアのショップで意外なものを買って、新しい出会いに結びつく。もしかしたら、そのお店の常連さんになるかもしれないし、今まで知れなかったものを知るキッカケになるかもしれない。なので、このフェスではスタッフにはお弁当は渡さずに、クーポンをあげる予定です。それを使ってスタッフにもフェスを楽しんでもらい、色々な新しい発見をしてもらう。2人組ぐらいで休憩に出てもらう際に、お互い違ったものを頼んで、シェアして食べ合ったり。熊谷の街に来たからこその発信や発見、出会いや繋がりが、このフェスを通して実現出来たら嬉しいですね。

——このフェスは継続的に行っていかれるんですか?

毎年出来るかは分かりませんが、フェス自体は続けていく所存です。これで失敗しても、ここで終わりにするつもりはありません。失敗の原因を探り、そこを補完していき、次回にはもっと良いフェスに、その次にはさらに良いフェスにと。で、多くの人たちに集まってもらい、その人たちが笑顔や満足な顔で帰ってもらい、何かその人たちの生活が多少でも潤いのあるものになってもらえる。そこを成功に続けていきます。

 

モルタルレコード店主・山崎育宏の原動力になっている楽曲を紹介

1. 「四文銭」/MOROHA
今も時々スタッフとして携わっているアーティストの一つです。年下ですが出会って以来、彼らには未だ常に刺激をもらってます。自分がらしくない時は正面から「それって違くないですか!?」と叱咤激励してくれる存在でもあって。

この歌は「一文銭」「二文銭」とシリーズとしてある最新作です。この曲を聴くと毎度、「自分も負けてられねぇゾ!!」と奮い立たされます。あとは、この曲のギターのフレーズを作っている際、僕も一緒にいて。それも思い入れも深いし。この歌の根底にある、ずっと悔しいまま、掴めないものを追い続けている感じがすごく好きで。

あとは、乗り越えなくちゃいけない課題はまだまだ山積みという状況も、凄く自分の人生ともリンクするし。その悔しい悔しいと思い続けているのが、自身を成長へと導いてくれることを教えてくれた曲でもあります。


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2. 「カウント10」/竹原ピストル
この曲の魅力は、やはりシンプルでストレートに胸に突き刺さってくる、その真っすぐな歌詞でしょう。中でも、《カウント10だけは自分の諦めが数えるものだ》のメッセージには、むちゃくちゃシンパシーを覚えます。正直、僕、歌詞カードをじっくりと読むタイプじゃないんです。聴き流し、引っかかったりするものを改めて歌詞で確認するタイプで。そんな中、竹原ピストルさんの歌は歌詞カード無しでもどの曲も入ってくるんです。

内容の「カウント10だけは人に数えてもらっちゃダメ」「自分の限界は他の人が決めるんじゃなく、自分で決めるもの」的な内容は凄く共感できます。やはり辞め時や潮時は他人にとやかく言われて決めるんじゃなく、自分で始めたことなんだから、自分自身できっちりとけじめをつけなくてはならない。それを常に僕も肝に命じていますから。

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3. 「聖書(バイブル)」/岡村靖幸
今、むちゃくちゃ聴き返してます。このアルバムや米米CLUB等、昔、学生の頃よく聴いていた作品を今、よく聴き返すんですが、昔は音源を今より大切に聴いていたんでしょうね? 細部までキチンと今でも覚えているんですよね。歌詞をシングル曲以外も覚えているのはもちろん、曲間の感覚や入っている音、その他細部までもキチンと今でも聴いていると蘇ってくる。当時はカセットで録って聴くことも多かったんで、なるべく劣化させたくなくて、早送り等もしませんでしたからね。その分、丸々キチンと最初から最後まで聴いていたんだなって。

その聴き返す中でも特に多いのが、この岡村靖幸で。中でも「聖書(バイブル)」って曲はベースのチョッパーから始まるんです。それがファンクとの出会いで。僕がブラックミュージックを好んで聴くキッカケとなったのも、この曲からだったんです。多感な時に、洋楽に導いてくれた1枚でもあるんです。

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■モルタルレコード店主 山崎育宏氏 プロフィール
埼玉熊谷という東京から1時間位のベッドタウンにおいて、音楽が人生を良い方向に変えれるならと2001年にセレクトインディーズCDショップとして活動を開始する。

デモ音源から応援するスタイルで、これまでに様々なバンドの音源を取扱い、応援し続け、様々なレコード会社に紹介し、そこから排出されたアーティストには今も活躍するものが多い。

デモ音源から取り扱ったアーティストの中にはback number、凛として時雨、the telephonesなどもいる。

現在はイベントに力を入れており、それも直接アーティストから音源を手にする機会と思って発信している。
音源を作った本人が手渡す事で、作る側のモチベーションも高まるし、ファンとの結束力もより強くなると信じている。

自分の私欲よりアーティストが末長く活動を続けられるような音楽環境を作るのが理想で今も頑張り続けている。


 

 

text by 池田スカオ