andropが実体験を経てニューシングル「Hikari」で示した身近さという変化とは?

自身の伝えたい楽曲に込めた気持ちや想いを、時に孤高に、時に親近さを持って伝え分けて放つアーティストたちがいる。その際に発せられた身近さは、その孤高性の高さに比例し、次第に「慕い」へと育まれていく。

私の中でのandropは、そんな「慕い性」の強いバンドだ。とは言えそれは決して、いい加減さや気まぐれ、振り回されているものとは違った類。キチンと、その伝えたいこと、描きたいもの、届けたい想いが各曲適宜な距離感をもって都度伝えられてのことだ。それも手伝い、彼らの作品のファンや聴き手は、まるでその距離感を嗜むように、時に孤高に感じる彼らを、時に身近で傍らに感じる彼らを曲毎に楽しんでいるようにも映る。

そんなandropが、この8月29日にニューシングル「Hikari」をリリースした。フジテレビ系ドラマ『グッド・ドクター』の主題歌としても、早くも半クール流れてきたので、既に耳にしてきた方も多いかもしれない、このタイトル曲。歌内容、伝達手段、シンプルさ等々、私はこの曲に彼らの既存の歌中、最も近い距離感を抱いた。

androp「Hikari」Music Video (short ver.)フジテレビ系 木曜劇場「グッド・ドクター」主題歌


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この「Hikari」は、これまでのandropのバンド然としたフォーマットとはあえて違え、バンドサウンドにこだわらず、その歌の持つ特性が最大限に活かされた、ピアノとストリングスを中心としたメゾッドも印象深い楽曲。
シンプルながらドラマティックなアレンジも特徴的だ。包まれるかのような、とても柔らかく暖かい伝え方も耳を奪い、その上、僕が連れて行くから!! と言わんばかりのぐいっと抱き寄せる力強さも内包している。曲に込められた想いや気持ちが真摯に伝えられている同曲。その辺りは、ソングライティングを手掛けるボーカル&ギターの内澤が思う今のandropの姿勢が如実に表れていると言っても過言ではない。

この楽曲には幹がしっかりとしてる自信を持っていて。それもあり、弾き語りやバンドサウンド、ホールでも鳴らせられるでしょうし、どんな伝達手法に変化させても届く自信のある楽曲です(Vo/Gt:内澤崇仁)

今、振り返ると、この楽曲に至るまでに、これまで幾つもの伏線が敷かれていたようにも感じられる。年末のビルボードジャパンでのライヴ際のこれまでとは趣きを違えたアコースティック楽器を使っての伝達方法。今春発売された最新アルバム『cocoon』での彼ら初の試みや意外性、新機軸等、これまでの彼らには見られなかった試みを経た、こんなにも自由で幅広く多彩な引き出しを持っていることを証明し、具現化してくれた作品観。その『cocoon』をライヴで再現する際に打ち出した「光」というキーワードと、そこでの身近さを保った伝達方法…。中でも歌を中心にバンドサウンドよりもむしろ、ピアノやストリングスといった自分たち以外の楽器を主に、ウォームで柔らかく、優しく伝える手法に新しい何かを感じた。


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内澤君が楽曲に込めたと思しき想いを大切に、強く意識しながらレコーディングしていきました。そこに込められた想いや願いが、ブレたり、濁ったりしないように、ストレートに聴き手に伝わるようなプレイを意識しましたね(Gt/Key:佐藤拓也)

『cocoon』ライブの中盤での演奏や表現スタイルを経たことが今回のレコーディングでは大きかったかなと。今まで方法論的には分かってたし、入れ込みたかったけど、実際どう落とし込んでいくか? が、あのツアーを経て見えた気がしたんです。その辺りも反映してみました(Dr:伊藤彬彦)

ちなみにこの楽曲が主題歌を務めるドラマ『グッド・ドクター』(毎週木曜 後10:00/フジテレビ系にて放送)は、2013年に韓国で連続ドラマ放送され、2017年にはアメリカでも連続ドラマ化されたもの。それを基に、この日本では「日本の小児外科」に落とし込み物語は進められていく。主演は山崎賢人。自閉症スペクトラム障害を抱える小児外科の研修医が、子どもの命のために闘い、寄り添い、共に成長していく姿を描いたメディカル・ヒューマンドラマだ。ただ医療内の問題や出来事や事件、生命についての尊さを描くのみならず、主人公が抱えるマイノリティにも目を向けさせ、「医療」と「障害」「差別」といったものにも、真摯に向き合っている内容も興味深い。実際、このドラマの内容は評価も高く、ここまで軒並み毎週高い視聴率を叩き出している。そんな同ドラマの大事な場面で流れ、ドラマの感動性をさらに演出しているとの声も高いのが、この「Hikari」に他ならない。

光の向こうと呼ばれる、希望や望み、夢や目標を感じさせる場所へと、僕があなたを連れて行ってあげる感溢れる今回の歌詞。それらはもちろん、聴き手に向けて歌われているものではある。

「この楽曲に関しては、制作前に先方(ドラマ制作サイド)からリクエストがあったんです。今回はミディアムテンポのバラードでも聴かせられるし、哀しい場面でも流せるような曲が欲しいと。しかも、例えテンポをスローにしても聴かせられるような、その両方を兼ね備えた楽曲とのリクエストがあったんですが、それがかなり難しい注文で。バンドバージョンの方の譜割でゆったり作っちゃうと、スローバージョンにした際にかなりゆっくりと感じるんです。それこそ演歌みたいに(笑)。それでこの2パターンに落とし込みました」(Vo/Gt:内澤崇仁)

そう、今回のシングル「Hikari」には2バージョンが収まっている。「Hikari」(以下、便宜上「オリジナル・バージョン」と「Hikari(piano TV ver.)」(以下、便宜上、ピアノ・バージョン)。どちらも同じ旋律とリリックながら、その伝達方法やアレンジ、歌唱で全く違ったように響く2曲だ。

この楽曲はむちゃくちゃ丁寧に作られている。中でもオリジナル・バージョンの方は、あそこから、こんな展開になるのか!? との感動が聴き進めた先に待っており、2番ではリズムを一部若干シンコペーションさせている等、凝ったところも伺わせる。また、ボーカルの重ね方も特徴的で効果的。あえて数小節丸々ハモりを入れず、一本にすることで、その効果性を増させている。またハーモニーやコーラスも非常に練られており、あえてストリングスの下にクワイア的なコーラスを敷くなど、一度はヘッドフォンでじっくりと聴いてもらいたい。

そして、この「Hikari」は、起用されているドラマ内容に違わず、歌内容も内澤がかねてより楽曲に忍ばせていた死生感も見え隠れし、大変興味深い。というのも今回の歌詞を作るにあたり内澤は、小児医療センターを実際に取材したという。

「自分なりの死生観を上手く曲にし、表したのが今回の「Hikari」でもあるんです。今回、この曲を作るにあたり、医療ドラマという人の生死を扱うテーマということもあり、実際に医療の現場に行かせてもらいました。そこで実際に見聞きしたものが今回の楽曲には大きく反映されています」(Vo/Gt:内澤崇仁)

その辺りが強く表れたのがオリジナル・バージョンのDメロ付近。上述のクアイアが下に敷かれていた箇所だ。
その箇所はとてつもない生命力を感じさせていたのだが、以下の言葉からそれにも合点がいった。

「その小児医療センターの霊安室は教会みたいになっていて。ステンドグラスがあって、青い光が差し込んでいる。子供が薄暗いところでお別れさせられるよりも、天国に一番近い場所で送ってあげたいという想いからだったそうで。実際にそこに入らせてもらう機会があったんですが、凄く尊さや生命の尊大さが感じられたんです。そこから、今回のこのアレンジに結びつきました」(Vo/Gt:内澤崇仁)

一方のピアノ・バージョンに話を移そう。こちらは上述のものよりもさらにシンプル。歌と鍵盤をメインに、ストリングスを忍ばせ、よりしっとりと伝えている。ボーカルがさらに全面に、身近さを帯び、ダイレクトに歌われている感がある。それはまるで、「みなまで言わずも、すべてを察する」、そんなことを聴き手に委ねているかの如くだ。同曲がけっして、オリジナル・バージョンのダイジェスト的には感じられず、これはこれで単独作品として成立しているのも興味深い。その辺りは内澤の楽曲に対する、90秒で伝えるもの、5分をかけて伝えるものとの明らかな別物感といったこだわりのようにも映った。

今作には他にも3曲のライヴ音源が収録されており、それらはどれもが前述の『cocoon』ライヴの際の、アコースティックコーナーで披露されたバージョンばかりだ。ライブバージョンとは言え、それぞれ違った伝え方が施された各曲。こちらも各曲非常に丁寧でデリケートな作品に仕上がっているのも印象深い。

「Catch Me(Live)」は、悲痛に伝えないが故のリアリティが聴き手の胸を締めつけるナンバー。淡々としながらも、ドラマティックさを帯びていき、曲が進む毎にこれでもかと徐々に転調していき、それがより心の叫び感や悲痛さへと繋がらせている。また、「Sorry」は、アコースティックタッチの曲調と、あえての打ち込みとの融合が斬新なナンバー。ラストに向けての広がりがたまらない。そして、「Hanabi」では、歌を支える演奏の上、はかなさと切なさを聴き手の中で広がらせていくのが特徴的。既に花火の季節は過ぎたが、逆に想い出や残像だからこそ残せる想いを重ねさせてくれる楽曲だ。


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各曲、僕たちとサポートの鍵盤の方のみのライブから収録しました。いわゆる楽曲が完全メインで、その為、かなり技量が露見することもあり、当日はえらく緊張しました(笑)。楽曲のバリエーションが多かったんで、色々なタイプの楽曲を織り交ぜて行うこともできて。あと編成も変わって行ったりしましたからね。その辺りのバリエーション出しの方はけっこう考えました。(Gt:佐藤拓也)

自分たち的にも音楽に立ち戻れた感があって、いい経験になりました。こう演出が過度になっている今の時代だからこそ、やはり楽曲や歌の本質で戦っていかなくちゃいけないだろうと挑んだのが今回なので。それが実現出来たのもやはりホールツアーならではだったからでしょう。(B.:前田恭介)

この秋には、先の全国ホールツアーとは対照的な「one-man live tour 2018 “angstrom 0.9 pm”」とタイトルされた全国ワンマンライヴハウスツアーを行う彼ら。そこでは今度はスモールクラスならではのあえて身近さが各曲味わえそうだ。選曲もきっとそのような、より身近さを持った楽曲の多くが我々へと伝えられることだろう。そんな彼らの身近さの本質ともいえる今作。そんなこのニューシングルを聴いて、是非次のツアーにも足を運んで欲しい。きっと今作で伝えた身近さは、その距離感さえも超え、最後はあなたとの気持ちの同化を魅せてくれるはずだから。

text by 池田スカオ
この音楽を紹介しているキュレーター
  • androp

    内澤崇仁(Vocal&Guitar)、佐藤拓也(Guitar&Keyboard)、前田恭介(Bass)、伊藤彬彦(Drums)による4人組ロックバンド。 2009年12月に1stアルバム『anew』でデビュー。多くのタイアップ曲を手掛けるほか、ミュージック・ビデオも国内外11のアワードで受賞。内澤は楽曲提供も多く、柴咲コウ「EUPHORIA」、Aimer「カタオモイ」など、高い評価を得ている。 2018年はオリジナルフルアルバム『cocoon』を発売。春にホールツアー、秋にライブハウスツアーを開催し、活動の幅を広げている。